Treatment details
治療について
当院では、西洋医学の視点から痛みや不調を「病態」として全体的に捉え、体格や姿勢などを丁寧に観察し、本質的な原因を探ります。鍼はあくまで道具であり、患者様自身の回復力を引き出すサポートを行います。また、病態の説明を丁寧に行い、治療効果を高めるためにも患者様ご自身の体の状況を理解していただくことを重視しています。
緩和ケア
帯状疱疹
スポーツ障害
緩和ケア
がん終末期の苦痛を和らげます
緩和医療は、1989年にWTO(世界保健機構)が提唱した「がんの診断時から終末期までQOLを重視する医療」に基づいています。がん治療の全過程で患者のquality of life(生活の質)を最大限に高めることを目標とし、痛みや苦痛をトータルペイン(全人的痛み)として捉え、様々な治療法で対処します。当院は「緩和医療に貢献する」を院是とし、院長のライフワークとして日々取り組んでおります。
がん患者の痛みは様々
終末期がん患者の症状は多くの因子が複雑に絡みあっている場合が多く、その治療には受けもち診療科の枠を超えた、緩和専門のチームがあたることが必要となります。痛み一つとってみても様々な痛みがあり、その原因として大きく分けて4つの痛みが混在しています。
1)がん自体(腫瘍の浸潤や増大、転移など)が直接の原因となる痛み。
2)がん治療に伴って生じる痛み。(術後痛や術後の慢性疼痛、化学療法による神経障害に伴う疼痛など)
3)がんに関連した痛み。(長期臥床《長期に床についている状態》に伴う腰痛、リンパ浮腫、褥瘡《床ずれ》など)
4)がん患者に併発した、がんに関連しない疾患による痛み。(変形性脊椎症、帯状疱疹など)
このように単に痛みといっても様々異なった原因を含んでいます。そしてそのことに対処するために出来あがったのが緩和ケアということになるでしょう。
鍼灸は緩和医療・緩和ケアに大きな役割を果たします
抗がん剤の副作用である苦痛などを和らげます
鍼灸療法は緩和ケアの一治療法として取り入れられており、ケア・チームの一員として機能しています。がん治療の中で治療を難しくする原因の一つに薬物、特に抗がん剤による副作用があります。薬の性格上やむを得ないものですが、症状が重くなると治療の中断もせざるを得ない場合さえあり、治療計画を狂わせる原因の一つとなっています。鍼灸療法はそんな化学療法で傷ついた患者に身体的・精神的に活力を与える方法として使われています。例えば抗がん剤による消化器症状や吐き気・嘔吐などの症状を抑える、長期臥床(長期で床についている状態)から来る様々な部位の凝りや痛み、また精神的不安から引き起こされる不眠や痛みを取り除くなど、広範に用いられ有効性を発揮しています。
鍼灸療法の良さは、現在実施進行中の治療にほとんど影響を与えないことと、治療自体の副作用がほとんど見られないこと、またその効果が西洋医学では苦手としている不定愁訴(熱感、しびれ、だるさ、冷えなど)に対しても効果的であること、適用範囲が広いことなどです。そのため現在行われている治療と同時進行で治療を進めることが出来、縁の下の力的存在で貢献しているところです。
鍼灸師は医師の治療をサポートしています
緩和ケアに参加している鍼灸師や鍼灸院は、全国的にまだ非常に少ない状況です。理由として、鍼灸療法が緩和ケアに有効であることが医療者に十分認知されていないこと、また鍼灸師自身もその有効性を認識していないことが挙げられます。さらに、チーム医療としての参加が求められる緩和ケアにおいて、鍼灸界が不得手であるという事情もあると思われます。例えば、胃がん手術後に転移が見つかった場合、外科のみでは対応が困難です。それは他の部位のがんでも同様で、緩和ケアがサポートとして重要な役割を果たします。各専門職が患者の苦痛軽減やQOL維持に貢献するために活動しています。鍼灸師がチームに参加するには、鍼灸技術だけでなく、医師などの専門職の理解や、患者に関する幅広い知識と理解が必要です
当院の緩和ケアに対する取り組み
医療の現場での豊富な病理学の知識や外来の経験を生かします
緩和ケアの世界に当院が最初から取り組んでいるのは、院長が歩んできた医学界での経歴と緩和ケアに対する熱い思いからです。10年に及んだ病理学教室での時間とその間に経験した1542例という病理解剖は、その後の病理観、病態観の形成に多大な影響を与えてくれました。そして、その病理解剖に身を挺して下さった1542名の患者様は私にとって医学上の師であり、感謝してもしきれない存在となったのです。そして、そのようなことからその方たちに何らかの形で恩返しがしたいとの思いがつのり緩和ケアという道を志しました。その後、緩和ケアの中でも大きなウエイトを占める除痛という技術を学ぶためにペインクリニック科に移り、外来での臨床経験も積むことが出来たことが現在の緩和ケアの患者様と向き合う時の大きな支えとなっています。
緩和ケアでの鍼灸治療は以下のようなものです。
1.痛み(痛みの原因を問わず殆どの痛みに対応 )
効 果 | 鎮痛効果、筋弛緩効果、血流改善効果 |
改善点 | 痛みの消失又は改善、ADL・QOLの改善、意欲の向上 |
2.呼吸苦
効 果 | 鎮静効果 |
改善点 | 呼吸困難の改善、そのことにより体力消耗の回避など |
3.便秘(嘔気・嘔吐等、消化器症状を含む )
効 果 | 消化管の蠕動運動改善、刺鍼効果による腹部の血流改善 |
改善点 | 便秘改善、腹痛改善 |
4.不眠・不安(気持ちの辛さ等、他精神症状)
効 果 | 肩背部、頭部、顔面部の筋弛緩による血流改善 |
改善点 | 不眠、不安の改善 |
5.浮腫(むくみ)
効 果 | 血液循環の改善 |
改善点 | 浮腫の改善 |
6.褥瘡(床ずれ)の予防及び治療
効 果 | 皮下、及び 筋層部の血流改善 |
改善点 | 血流改善による褥瘡の予防、治療 |
緩和ケアはホスピスではありません
緩和ケアは時々ホスピスと同義に扱われることがありますが緩和ケアはホスピスとは違います。ホスピスケアはいわば、がんとの闘いはやめて苦痛を少なくして残りの時間を生きる・・・というものです。
緩和ケアはもちろんホスピスでも行われることはありますが、まだ治療を必要とする段階で、というよりも、がんと診断されたその時から始まるのです。がん治療はがんとの闘いでもあります。その闘いに臨むに当たり痛みや不安などを改善することにより、より良い条件下での治療が可能となります。そしてそれは同時に闘いへのモチベーション・アップにもつながり効果的な治療の一助となるはずです。その様な治療に鍼灸療法は貢献しているのですが、縁の下的力の貢献の所以です。
緩和ケアにおける鍼灸療法適応症
がんによるもの
●がんによる痛み
●術後の慢性疼痛(傷口の痛みなど)
●抗がん剤や鎮痛剤などに伴う痛みや冷感
●長期臥床(長期で床についている状態)に伴う腰痛や体各部の痛み
がん以外によるもの
●リンパ浮腫
●褥瘡(床ずれ)の予防及び治療
●便秘
●帯状疱疹などの難治性疼痛
●不安および不眠
●呼吸苦
●その他の痛み全般
帯状疱疹
帯状疱疹とは?
帯状疱疹はヘルペスウイルスというウイルスの一種によって引き起こされる病気です。顔、胸、お腹、背中 といった好発部位の他に体のいたるところに発症する可能性があり、患部に現れる水疱を伴った赤い発疹が特徴的で同時にチクチク、ヒリヒリといった言葉で表現される痛みが持続的に続くとても嫌な病気です。
この痛みが慢性化した状態を帯状疱疹後神経痛といいますが、最先端を誇る現代医学をもってしても治療が難しい痛みの一つです。
帯状疱疹の原因と症状
帯状疱疹の原因
人に感染するヘルペスウイルスは8種類ありますが、帯状疱疹はその中の一つである水痘帯状疱疹ウイルス(ヒトヘルペスウイルス3型)というウイルスにより引き起こされる病気です。私たちのほとんどが子供の頃感染した経験を持つ水痘(水ぼうそう)はこのウイルスの初期感染期で、この後ウイルスは体内の奥深く神経に沿って潜伏感染し、何十年もじっと潜んでいる状況が続きます。そしてそのじっとしていたウイルスが何らかの原因で再活性化して現れる症状が帯状疱疹という状態です。帯状疱疹は高齢者、HIV患者に頻発する特徴と、免疫不全の患者ではより重くなる傾向がありますが、明確な悪化因子は特定されていません。
帯状疱疹の症状と帯状疱疹ウイルス感染、帯状疱疹後神経痛への移行
普通は身体の片側に疼痛(チクチクヒリヒリ等)、違和感が数日(2~3日)続き、その後その部位に水疱を伴う赤い発疹が出現します。その病変は一週間ほど続きますが、その後びらん、潰瘍、かさぶたの形成の順に経過し症状は収まっていく(皮膚病変は消褪していく)のが普通の経過です。しかし稀には目に病変が及ぶ眼部帯状ヘルペスや耳帯状疱疹という顔面神経などへの帯状疱疹ウイルス感染が起こる場合があり、重度の耳痛、顔面神経麻痺、めまい、難聴等を起こすこともあります。
さらに、何と言ってもこの疾病の大変さは、感染再活性化したウイルスによって知覚神経が傷つけられ、帯状疱疹後神経痛という、治療が難しく耐え難い痛みを生み出す病態に移行することです。帯状疱疹に感染したすべての患者が帯状疱疹後神経痛に移行するわけではありませんが、
①帯状疱疹罹患の「広さ」と「深さ」
②罹患患者の「年齢」
が大きな因子となると云われており、とくに年齢では60歳までは移行することは少ないが、60歳以上になるとその確率は高くなり、80歳以上になるとその確率は50%といわれています。
帯状疱疹の治療
帯状疱疹治療は ①薬物療法 と ②非薬物療法 の二本立てで行われます。その主な目的は、皮膚症状が治った後も残り続ける帯状疱疹後神経痛といわれる病態への移行の防止と、神経が傷つけられるために起こる耐え難い疼痛の軽減です。そのための第一選択として早期の「抗ウイルス薬」による治療が必須で、理想的には皮膚病変が現れていない前駆症状期に行い、皮膚病変出現後は遅くとも72時間以内に行うべきだといわれています。治療薬によりウイルスの増殖を抑え、感染規模(広さ、深さ)の拡大を防ぎ、ウイルスによる神経障害の程度を出来る限り軽度にする目的で行われるものですが、しかし何よりも肝要なことは出来る限り早い段階での医療機関への受診に尽きます。時間経過に伴って感染規模の拡大は進行し、その分帯状疱疹後神経痛への移行リスクは着実に高まるからです。不幸にも移行を阻止できなかった場合、その管理は非常に難しくなる場合が多く、治療も多くの場合、非常に難渋することが多くなります。
神経障害による痛みに対する手段としては、
①薬物療法
②非薬物療法
ーーが同時に行われ、薬物療法では抗うつ薬や麻酔薬による神経ブロック法が行われたりオピオイド鎮痛薬が用いられたりする場合があります。 非薬物療法では経皮的通電神経刺激法や心理学的方法、行動療法なども用いられ、そういった方法の一つが鍼灸療法です。
当院での鍼灸療法の長所
- 抗うつ薬やオピオイド鎮痛薬のような副作用の心配がほとんどない
- 筋性痛、神経障害性疼痛といった発生原因の異なった多種類の痛みに有効である
- 帯状疱疹その物ばかりではなく長く続く痛みのストレスのために引き起こされる頭痛、肩こり、不安、不眠といった様々な付随症状に有効である
- 帯状疱疹後神経痛に対する治療と同時に、鍼治療という刺激により副交感神経優位の状態に導き、身体全体の血流改善、赤血球、白血球の新生による免疫能の賦活がみられることから予防医学的効果も期待できる
スポーツ障害
スポーツ障害の原因は筋肉の使い過ぎ
鍼灸臨床でスポーツ障害の方々を見てきました。外傷性のものを除いて、その原因のほとんどをオーバーユースOver use(使い過ぎ)による筋肉の疲れに求めることが出来るように見えます。 健康な筋肉は非常に柔軟性に富んだ組織で、運動の時伸びたり縮んだりを繰り返して体を動かしています。特に力を出す運動は筋肉の収縮によって行っており、筋肉が疲労してくるとその柔軟性の減少、一部は収縮したままの状態(攣縮)になるなどして運動能力が低下し、体は疲労感、張り感や凝り感、痛み、痙攣などといった警告信号を発します。
その時点で運動を一時的にやめるなど、負荷をなくせば障害を起こすことは少ないのですが、たいていの場合はそのまま運動を続けることが多く、重篤な障害へと進展していきます。障害は様々な部位に起こりますが、その本態をよく見ると結局筋肉の疲労による筋肉自体の痛みであったり、筋肉疲労による支持力の低下により負荷が増大したために起こってきた関節の障害であったりします。そういう視点でスポーツ障害をみてみると、その他の外傷性のものですら筋肉疲労が引き金になって引き起こされている可能性が推察されます。
スポーツ障害を防ぐには
スポーツ障害を防ぐのは比較的簡単なことで、「予防対策をしっかり採る」・・ということになります。具体的にはスポーツ障害の本態と思われる筋肉の疲労をその日のうちに解消し、翌日に残さない、蓄積させないことです。鍼灸療法は疲労を解消する最も適した治療法であるといえます。その理由の一つに、鍼灸療法には副作用というものがほとんどない安全な治療法である・・ということが挙げられます。治療法は効果もさることながらまずは安全でなければならない・・という大前提があり、その点からいっても鍼灸療法は最も適した治療法であるといえます。
鍼治療では鍼という金属の道具を一時的に体内に差し込みはしますが、注射や薬のように薬理作用のある物質を体内に入れることはありません。鍼という道具を使って人間がもともと持っている回復力、治癒力という力を引き出すだけです。ですから、鍼治療には副作用は出現しない・・と言うことができるのです。
理由の二つ目として、適用範囲の広さが挙げられます。治療範囲でいえば頭のてっぺんから足のつま先までどの部位でも治療が可能です。また、急性の捻挫から慢性の筋肉疲労まで、表在性の痛みから深部痛までと自由自在です。特に痛みでは深部の限局性の部位をピンポイントで刺激したり、神経の支配領域を応用してその領域全体を1本の鍼で刺激したり・・と様々なことが可能となります。また、予防目的で、または治療目的で、またはリハビリ現場で・・と、ありとあらゆる場面にも対応できる適応性を持っており、この点も鍼灸療法の適用範囲の広さを示す一端ではないかと思います。
このように「安全性」、「適応範囲の広さ」等を見てもスポーツ障害の治療法としての鍼灸療法は、最適の治療法であるという事が出来るのです。事実、現在多くの有名なアスリートの方たちが治療法として、または予防ケアとしての鍼灸療法を取り入れておられることは周知のとおりであり、スポーツ障害に対する有用性の証明でもあるのではないかと思います。